フルート科指導者 宮地若菜

 

 1996年、その頃、私のクラスに7歳の女の子ゆうちゃんがいました。お父様が学生時代トロンボーンを吹いていたというご家庭、管楽器が身近にあって、自然にフルートに興味を持ち、レッスンをしていました。ゆうちゃんには5歳の妹まーちゃんがいました。お母様と3人で、電車に30分乗って、降りた駅から15分歩き、エレベーターのないビルの4階の教室に毎週通ってきました。いつも楽しくて仕方がないという様子の仲良し姉妹でした。
 
 スズキ・メソードでは、家で「毎日お稽古すること」がお約束。姉のゆうちゃんは毎日フルートのお稽古をしていました。妹のまーちゃんは、そのフルートの音を聴きながら育っていました。
 
 ある日のレッスンで、バッハのメヌエットを吹いていたら、まーちゃんがメヌエットのメロデイを歌いながら、くるくる踊りだしました。キラキラ星もアレグロも姉がお稽古した曲は全部覚えていて、歌いながら踊るのです。そして「フルート吹きたい!」と私に訴えました。
 
 そこで姉のU字菅フルートを持たせてみたのですが、長いし、重いし、指がキーに届きません。小柄で身長95cmのまーちゃんには、とても無理でした!
 
 でも、まーちゃんは「フルート吹きたい!」のです。
 
 私は「楽器を変えるしかない!」と思い立ち、三響フルートの工房に電話をしました。軽く短くするために、C足部管をやめて、D足部管を作ってもらいました。待ちに待って届いた試作品は、しかしあまり変わらず重いのでした。
 
 なんとしてでも軽くしなくては〜と、あれこれと思案した結果思いついたのが、スズキ・フルート指導曲集の1巻では使わない音のキー、トリルキーやaisレバーを外してもらうことでした。「これとこれも〜みんな外してください!」と電話で何度も説明したことを思い出します。
 
 後日談ですが、製作を担当してくださった方は「あるべきキーを外すことには抵抗があった」そうです。それでもよく研究してくださって、頭部巻のヘッドを軽くしたり、U字形頭部管が動かないようにジョイントを閉めるためのスクリューをつけたりしてくださいました。最後の難点は、右手の指のキーの位置でした。そこで4歳の女の子を連れて行き、正しい指の形を測ってもらいました。
 
 こうした試行錯誤の末、高品質のフルートができ上がりました。三響フルート製作、幼児用U字管フルート(モデル115)の誕生です!
 
 スズキ・メソードフルート教室では、今や、U字管フルート、もっと小さな幼児用U字管フルートで演奏する子どもたちが、いつもの当たり前の姿となっています。