スズキ・メソード フルートスクールの指導とは?
—その1:模倣のコンセプト—
みなさんこんにちは、スズキ・フルートスクールの宮前丈明です。このコラムでは肩が凝らない文体で、フルートや音楽、音楽教育にまつわるお話、そしてそれらと脳科学や医科学との接点などについて、継続的ご紹介していきます。
今回はコラム第1回ということで、「スズキフルートスクールって何やっているの?」ということを、まずは大枠から説明していきたいと思います。
(1) 模倣のコンセプト —何をどう真似るのか?ー
指導曲集に付属の模範演奏CDや、フルーティストに限らず大家の演奏をお手本にして、それら音楽的に優れた演奏と同じ演奏ができることを目標にして練習に取り組むプロセスを支援しながら指導していきます。幼児が耳から入った母語を何回も繰り返し発音しながら、立派に習得していく、そして文字の学習すなわち視覚を用いた言語習得プロセスが途中から入り、理論(文法)はもう少しあとになってから。脳の発達というのは段階があり、理論的なことをより効率的に理解できる準備が整うのは、ちょうど中学生の頃だと言われています。スズキ・メソードはこのような、母語の習得過程にヒントを得た指導哲学を構築、実践し、実際に大きな成果をあげているのです。
まずは耳で音楽を感じ、理解していきながら、それをフルートという道具を使って表現するための指導から始め、次いで耳で聴き取り、感じる能力が阻害されないように注意しながら、必要に応じて楽譜、すなわち視覚情報を上手に参考にできるように指導していく。そして、楽曲の理論や解釈は、生徒さんの表現力や音の発展を助けるように工夫しながら、年齢や進度に応じて慎重に導入していきます。
何を模倣するのか:昔から「青は藍より出でて藍より青し」「型に入って型から出でよ」などという故事や格言があります。最近では心理学の分野でロールモデルなどとも言われておりますので、模倣というのは単なるサル真似に過ぎないとする極端な考え方で毛嫌いする人は昨今減ってきたようにも思います。我々が社会性を持った大人となる、しかし個性もはっきりと持っている、そのためには様々なお手本は必須なのですが、では音楽教育の現場で、そういった模倣で得られるもの、得るべきものとは?
「音楽的な演奏ができ上がる過程における様々な方法論を模倣し習得する」
これは、画家がトレーニングのために名画の模写をする目的や、得られる成果と同じです。個々の“音楽的な演奏”には、もちろんその演奏家の個性が反映されていますが、それだけでなく、楽曲解釈や表現技法など、“大家たちが実践してきた共通の方法論”が含まれています。これを習得していくのが目的です。
インプット→方法論→アウトプット
非常に簡単に言えば、方法論が同じでも、インプットが違えばアウトプットが違ってきます。つまり方法が同じでも結果は個性的であったり独創的であったりするのです。インプットは、ここでは、楽譜や耳から入ってくる音だけでなく、そこから得るインスピレーションといった感性に関するもの、これまでの人生経験やその人の考え方などすべてです。そしてアウトプットとしての音楽的な演奏は、音楽表現の一貫性だけでなく、それぞれ個性がある、それは、皆立派な社会人としてそれぞれの場における文化やルールといった現場の環境に適応、順応しつつ、一方で皆それぞれ立派な個性を発揮している、これと同じことを音楽教育の現場で体系的に実践していきます。
もちろんフルートは、音を出して演奏するだけでも楽しいですが、楽曲のフレーズに応じて表情のある演奏をしたり、共演者の音から意図がわかって音だけでコミュニケーションができたり、作曲家の思いが自分の思いと重なって、まるで作曲家と生きた交流ができたような感覚を持てたり、またそういう演奏ができればお客さんにさらに喜んでもらえることが実感できたら、もっともっと楽しいし、音楽学習の深みも増します。そういうふうにフルートを通して音楽を学習していって欲しいと願って、より良い指導法をこれからも探していきます。
次回の「スズキ・フルート指導法」のトピックは、
(2) トナリゼーション —美しい音を得る秘訣?—
(3) 斉奏のメリット
などを予定しています、乞うご期待!